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2022年3月19日デボーション

伝道者の書 2章


「人生は束の間」


 詩篇を学ぶときに小林和夫さんを師と仰ぐように、伝道者の書コヘレトは、小友聡さんが私にとっての師匠だ。去年の春にNHKこころの時代で再放送した『それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』を観て、初めて小友さんを知った。この御仁は、私の大先生だと勝手に決めてしまった。

 小林先生もそうだけれど、言葉の解像度、フォーカスの仕方、リテラシーが私にとってフィットすると、ものすごく尊敬してしまう。著書を一字一句見落とさないように読みたいと強く願う。

 放送は6回シリーズで、文学者でクリスチャンの若松英輔さんとの対話方式で進められていた。私は若松さんにもぞっこんで、新刊を待っては読みふけり、若松塾にもオンラインで参加するようになった。

 小友先生はコヘレトを30年以上も研究している神学博士で、VTJ注解『コヘレト書』や聖書セミナー講義録『「コヘレトの言葉」謎を解く』は、読み応えがあってがっつり学べる。

 本を読んで知ったのは、コヘレトはキリスト教会の歴史の中で、長らく異端の書と解釈されがちだったこと。2017新改訳では1章2節「空の空。すべては空。」とあるが、1987新共同訳では「なんという空しさ、すべては空しい」という訳文だった。これではまるで世の中に絶望したペシミストかニヒリストのぼやきのようだ。

 今日のデボーション11節や17節にも「すべては空しく、風を追うようなものだ。」とある。確かに斜に構えた嘆き節にも読み取れる。だから長年コヘレトは、信仰を失い神を冒涜する人間だとすら見なされ、反面教師として読まれる向きもあったという。それを小友先生は30年かけてこつこつ研究し、汚名を晴らす聖書解釈を発表してきた。

”空”の原語、ヘブライ語は「ヘベル」だそうだ。旧約聖書には全部で73回へベルという単語が出てきて、偶像崇拝をへベルと否定的に表現したりするので、”空しさ”の他に、”無益”、”無意味”、という意味があると小友先生は教えてくれる。ちなみにコヘレトにはへべルが38回も出てくる。

 ただ英語の聖書はへベルの訳が多彩だと指摘する。vanity(空しさ)、emptiness(空虚)、absurd (不条理)、ephemerality (儚さ)、 mystery (神秘)、enigmatic(謎めいた)などなど。否定的な意味だけでなく、抽象的な”儚さ”、”神秘”、”謎めいた”という意味をも含ませる。これは「ルーアハ」の”消えていくもの、儚いもの”の意味と重なる。そこで小友先生はコヘレトは「人生とは儚い」と言いかったのではないかと説く。ヘベルの日本語訳の第一義は「束の間」と訳したいとした。「すべては空しい」ではなく、「すべては束の間」、とすればネガティブな印象が薄れる。さすが先生、絶妙な日本語訳!

 実際、旧約の時代の平均寿命は三十代半ばくらい。人生は束の間だったのだ。そのことをコヘレトは見つめ、だから無意味だとは言わず、そこからどう生きるか、どう生きたらいいのかを考えたのが「伝道者の書」なのだろう。

 バビロン捕囚で崩壊体験をしたユダヤ人共同体には、その後も紛争が絶えず、先の時代が見通せなかった。コヘレトは悲観的になりがちな不安定な時代に書かれたと小友さんはみる。

 自然災害や疫病、侵略、経済格差など、現代もまた先の見えない不安定な時代だ。数日前の夜中にも予期せぬ大地震が日本を襲った。コヘレトは現代の私たちに「どう生きるか」を問いかけ導いてくれる。

 神さま24節を祈ります。「人には、食べたり飲んだりして、自分の労苦に満足を見出すほかに、何も良いことがない。そのようにすることもまた、神の御手によることであると分かった。」飲み食いを享楽だと断じるのではなく、食べること飲むことを賛美してくれたコヘレト。飲み食いは日常茶飯、人生は束の間なのだから飲み食いのささやかな些事も、喜びとさせていただける恵みを受け取ります。「実に、神から離れて、だれが食べ、誰が楽しむことができるだろうか。」25節。感謝してイエスさまのお名前で祈ります。アーメン

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